Hiroshima BioMedical Engineering School

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STANDARD4:拡散MRIについて


・拡散現象」について

「拡散MRI」が計測の対象とする「拡散」という現象は,「ブラウン運動」と呼ばれるようなランダムな動きやその拡がりです.たとえば,コップの水の中にインクを一滴垂らしたときに徐々にコップの中に広がっていく現象としてしばしば紹介されます.また,最近ではTwitterなどで情報が広がることも「拡散」と呼びます.共通しているのは,ある時点ではごく限られた空間に集中して存在していた物質や情報が,時間の経過とともに広い空間に拡がっていく点です.
図1 コップの中のインクの拡散.© BruceBlaus

・MRIについて

MRIは「Magnetic Resonance Imaging (またはImage)」の略で,日本語では磁気共鳴イメージング法(または磁気共鳴画像)です.MRIは,物質を構成する原子に含まれる陽子が磁場中に置かれた際,電磁波からの作用を受ける「磁気共鳴現象」に基づいています.磁気共鳴現象は,対象とする物質(原子)や磁場の強さ,電磁波の周波数に依存して発生するかどうかが決まります.人体に最も多く含まれているのは水なので,水に含まれる水素原子を狙って磁気共鳴現象を発生させ,計測しているのが病院などで使用されている医療用のMRIです.
図2 病院で使用されているMRI装置.© Ainali

・MRIで得られる情報

レントゲン画像やX線CT画像では,得られた画素の情報は,X線吸収率に関連した数値で一種類です.一方,MRIの撮影方法には多種多様なものがあり,撮影方法ごとに様々な情報を得ることができます.例としては,磁気共鳴現象の対象となる水素原子の量,その分子における結合状態,動きに関する情報などが数値化されて記録できます.水分子の拡散を対象とした「拡散MRI」もその一つです.

・「拡散MRI」と「拡散係数」

「拡散MRI」とは,生体内の水分子の「拡散現象」を数値化して計測することができるMRIの撮影法の全体を指す名称です.例えば,拡散による物質の拡がりやすさを数値化したものを「拡散係数」と呼びます(*1)が,これをMRIによって計測することができます.拡散MRIは「拡散強調イメージング」と呼ばれる撮影法に基づいています.拡散強調イメージングで一回に計測できる水の拡散は3次元空間の特定の一方向だけですが,人体に対して左右方向,あるいは前後方向など,自由に決めることができます.また,拡散強調イメージングで撮影された画像を「拡散強調像」と呼びます(*2).

・人体の中の水の拡散

人体に含まれる水分子は,一部を除いてコップの中のインクのように自由に拡散することができません.細胞などの人体を構成する構造物でその動きが制限されます.また,その制限は特定の方向だけに偏ることがあります.例えば,非常に細い管のような構造物の中では,管の断面方向には水は拡散しにくく管が伸びている方向には拡散しやすい状態です.このように,方向によって水の拡散のしやすさ,つまり拡散係数が異なる状況(*3)を知るために,色々な方向で拡散強調イメージングを行います.その結果,人体のどの場所でどの方向にどの程度水が拡散しやすいかといった情報が得られます.
図3 方向によって変わる拡散強調像の例(矢印が拡散計測の方向).

・医療における拡散情報

人体内の水分子の拡散の情報は診断において非常に重要です.例えば,腫瘍などの病変は正常な組織と構造が異なるため,計測された拡散の情報も異なります.また病変がなく,一見正常に見えるような部位でも拡散MRIで計測してみると正常とは異なるような拡散の状況である場合があります.一般に,MRIの画素のサイズは0.1mm〜数mm程度ですが,画素のもつ拡散に関する数値がそれより小さな細胞レベルの構造を反映しているため,微細な構造の推定を行うことができ,重要な診断の根拠となりうるのです.また,さらにこれを応用したのが「Tractography」です(参照:Tractographyについて).
図4 Tractographyの画像(左錐体路).

*1 拡散の広がりやすさを数値で表す拡散係数の単位はmm2/sなどがよく使用されます.つまり,物質が秒あたりにどれくらいの面積に広がるかを示しているといえます.
*2 拡散強調像は特定の方向の拡散の計測結果なので,画像全体でそれぞれの画素の値がその方向の拡散の情報をもっています.
*3 これを「拡散異方性」と呼び,拡散MRIによる診断やTractographyでも重要な情報です.

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