Hiroshima BioMedical Engineering School

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STANDARD6:生体計測について


・生体計測とは

生体の動作に伴い,電気的な活動をはじめ様々な生理的・物理的現象が生じます.このような現象を観測することで,わたしたちの身体を含む生体において,どのようなことが起きているか調べることができます.例えば,心臓の動きは心電図によって視覚的に捉えることができます.心電図の波形を眺めることで,鼓動が速くなっていたり不整脈が生じていたり,身体の状態がどのようになっているか把握することができます.また,怪我をしたとき,レントゲンやCTの画像を撮ることで,骨折したり出血したりしていないかどうか調べることができます.このように,生体から得られる情報を定量的に測定することを生体計測といいます.
生体計測には,生体から発生する様々な信号(生体信号)を計測する生体信号計測,生体の運動に由来するものを計測する生体運動計測,生体の機能を計測する生体機能計測,生体の構造を解析するための生体構造計測があります.例えば,CTやMRIによって得られた脳画像から脳の機能を計測したり脳の構造を解析したりすることは,それぞれ生体機能計測と生体構造計測になります.

・生体信号の種類

生体から得られる情報のなかで,生体から発生する信号を生体信号といいます.生体信号には実に様々なものがあります.例えば,心拍や脈拍,体温のように,「生きている」ことを示すバイタルサインは医療の現場では重要な生体信号です.また,反射のように,刺激に対して無意識に生じる生理的反応も重要な生体信号です.さらに,生体が意思や意図に基づいて活動するときに生じる随意運動では,筋電や脳波,音声といった生体信号が観測されます.

・生体信号処理

生体において生じる信号には,皮膚温,指尖脈波,心電や筋電のように生理的計測によって得られるものと,生体内の粒子電荷,磁場や静電気のように物理的計測によって得られるものがあります.このような生体信号は微弱なうえに環境からの雑音に曝されているため,信号を増幅したり雑音の成分を除去したりする処理が必要になります.また,血液のように直接採取して成分を計測することができる場合ばかりでなく,身体を傷つけることなく(侵襲することなく)計測しなければならない場合もあります.
そのための技術が生体信号処理です.例えば,みなさんが音楽を聴いているときに,ボリュームを調整したり,ノイズキャンセリングの機能を使ったりするときのことをイメージしてみると理解しやすいと思います.また,ギター音やベース音,ボーカルといった好みのパートだけを強調することもできますが,このような信号処理はフィルタリングとよばれ,生体信号処理でも重要なもののひとつとなっています.さらに,生体計測において得られた磁場や近赤外光のような間接的な信号から,脳の機能を解析したり構造を再構築したりする技術も重要なものとなっています.このときには,みなさんもお馴染の写真加工・画像編集アプリで使われている画像処理の技術が応用されて役に立っています.
図1 生体信号(筋電)をオシロスコープで測定する実験.
青の波形は実信号で,黄の波形はフィルタリングした信号.

・生体計測の応用

生体計測は医療の分野はもちろんヘルスケアの分野でもますます重要となりつつあります.医療の分野では,体温や心拍を測定することは最も基本的なものになっていますし,脳波やCT画像,MRIを調べることで身体の外からはわからない体内の状態を捉えることができます.最近では,パーソナルヘルスケアという言葉が拡がりつつあるように,個人で血圧や血糖値を測定したりすることで,健康管理に役立てられています.また,最新の情報通信技術(Information Communication Technology)を応用したデジタルヘルスケアの分野も急成長しています.
医療やヘルスケアに限らず,ビジネスやアミューズメントの分野において,PCやタブレット,ロボットの操作に生体信号を応用するケースも増えてきました.例えば,iPhoneのSiriにように,音声信号で検索することはもう当たり前になりつつあります.また,筋電でロボットを操作したり,モーションキャプチャーによって得られた運動データに基づいてゲームのキャラクターを操作することもできるようになっています.このような技術は生体インターフェースとよばれ,医療の分野にもその技術が応用されつつあります.特に,脳波を利用した生体インターフェースはブレインマシンインターフェースとよばれ注目されています.
図2 生体信号(音声や筋電)によりロボットを動かす実験.
図3 生体信号(筋電)によりロボットを動かす実験.オシロスコープに筋電が表示されます.

生体インターフェースは,筋電義手や車椅子のようにリハビリテーションや福祉工学の分野でも実用化が進みつつあります.これからはスマートフォンやタブレットにもその技術が組み込まれますます発展していくことが予想されます.

・ウェアラブル生体計測機器

携帯電話やタブレットのようなモバイル機器の技術が発展したことで,生体計測のための機器を個人でも身につけられるようになってきました.心拍を計測できるApple WatchやFitBitのようにリストバンド・腕時計型の機器や,着るだけで生体情報(心拍数や心電波形,加速度)を計測できるスポーツウェアの開発が進んでおり,スマートフォンやタブレットと連携することで,健康管理がますます身近なものとなっています.このようなウェアラブル生体計測機器の研究や開発は,未来の新しい産業につながるものとして期待されています.
図4 ウェアラブル生体計測機器.


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