STEP-2:講演会

最先端の医工学の研究・開発の動向について学べます.

講演1 伊藤 孝弘 先生

電磁界シミュレーション技術と医療・ヘルスケア分野への応用

広島市立大学 情報科学部 医用情報科学科 講師


 電気(電磁界)とヒトの身体には密接な関わりがあります。例えば、脳から神経を通って筋肉に電気信号が伝わると手足などの運動ができるし、心臓は心房と心室が順番に電気信号で刺激されることでポンプのように全身に血液を送り出します。また、携帯電話などから放出される電波は、人体に当たるとその一部が吸収されて刺激や熱に変わって作用しています。

 このような事象を解明し、また医療・ヘルスケア分野や製品開発へ応用していくために、電磁界シミュレーション技術が利用されています。心電図で不整脈が観測されたら、その電圧変化を電磁界シミュレーションで再現することで原因となっている場所を推定し、不整脈治療に役立てることができます。皆さんが日常的に使っている携帯電話は、放出する電波がヒトに当たっても安全性が保てるよう、電磁界シミュレーションに基づいて設計されています。

 ヒトを対象とした電磁界シミュレーションをするためには、コンピュータの中でヒトの構造を再現する必要があります。その構造はMRIで取得した画像などから作られており、サイコロ状のブロックを積み上げたような形、または表面を三角形で区切った形をしています。そしてそれぞれの要素が筋肉、骨、脂肪などに割り当てられ、高精細なヒトのモデルをコンピュータの中で扱うことができます。

 本講演では、電磁界シミュレーション技術の基礎的な内容から、医療・ヘルスケア分野などへ応用した研究まで紹介します。

広島市立大学 医用情報科学科の紹介は こちら


講演2 小田垣 雅人 先生

産学連携による 運動情報計測装置の開発実績と社会実装 ~リハビリ・介護現場への展開~

前橋工科大学 工学部 生命工学領域 准教授


 本講演では,これまで産学連携により開発してきた運動機能計測システムを中心に紹介します.私たちのグループでは,群馬県内の企業と協力してハンドトラッキングセンサやタッチパネルを組み合わせて上肢の運動機能を定量的に計測する「電子ペグボードシステム」を開発し,2022年に商品化しました.さらに本システムの販売を目的として大学発ベンチャー企業を起業し,現在に至っています.初めに本システムの開発経緯と,大学の研究成果を社会実装することの障壁・困難さをお伝えしたいと思います.

 次に,繊維を用いた運動計測センサについてお話したいと思います.群馬県は,歴史的に織物や編物など繊維工業を主産業として発展した経緯があり,現在でも県内には多くの繊維関係企業が存在します.私たちは地元企業の方々と刺繍技術を活用した導電性繊維を用いた静電容量式の体圧・接近センサを開発し,介護技能を評価するためのシステムを構築しています.本講演において,このシステムの開発実績と検証結果についてご紹介します.

 最後に,前橋工科大学独自の取り組みについてお話します.私自身,2012年に広島市立大学の職を辞し,現在まで前橋工科大学において研究を続けてまいりました.前橋工科大学については,中国地方の方々からするとあまり馴染みがないかもしれませんが,本学の特長は,上記の実績でも示したように中小企業との共同研究を積極的に取り組むところにあります.過去には「中小企業に協力的な大学全国第1位」になり,最近では「企業版ふるさと納税」により企業からの研究資金の受け入れを開始しており,地元企業との接点が多いことが強みです.また,前橋市がデジタル田園都市構想に採択されるなど,デジタルの先端的な取り組みが開始されています.このように他の公立大学とは異なる前橋工科大学独自の取り組みや特徴をお話ししたいと思います.

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