Hiroshima BioMedical Engineering School

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STANDARD4:マイクロロボットと医療応用


・MEMSとは

「MEMS」とはMicro-Electro-Mechanical Systemsの略称で「メムス」と発音し,微小な電気機械システムを扱う研究分野のことを指します.技術的には,半導体の製造技術を基盤として,これに立体的な構造を作製するための加工技術を付加し,そしてmmサイズ以下の微小な機械を作製します.すなわち,MEMS技術を用いることで,これまでは不可能であったとても小さなモノ,例えば皆さんの髪の毛の直径と同じ大きさの歯車とか,大きさ1.0mm程度の運動する機械(アクチュエータ,図1および2)を実現できます.
図1 櫛歯構造をしたマイクロ運動機構.

図2 チューリップ構造をしたマイクロ運動機構.

・MEMSの産業応用

歴史的には1980年代頃から注目されはじめ,今では数多くの製品でMEMS技術が利用されています.例えば,自動車にはMEMS技術で作製された小さな圧力センサ,流量センサ,加速度センサ,ガスセンサが数多く使われ,自動車の燃費,安全性を支えています.そして携帯電話やゲーム機の中にも皆さんの動きを検出するためのマイクロセンサが,そして家庭用印刷機であるインクジェットプリンタ(インクカートリッジの部分)にもMEMS部品が使われています.また,MEMS技術を用いることで,これまで机一個分の大きさが必要であった分析装置を手のひらサイズにまで小型化でき,その結果,いつでもどこでも環境物質などを計測評価することが可能になります.このようにモノを小さくすることで,これまでできなかった機能,サービスを新たに生み出すことができるというのがMEMS技術の最大の特徴です.

・小さな機械が可能にするサービス

現在のMEMS技術を用いることで,例えば大きさ数mm程度の小さな加速度センサを作製することができます.実はこの加速度センサ,当初,自動車のエアバックを動作させるために開発されたという経緯があり,今では乗車時における人の安全を支える重要な技術の一つになっています.また,最近では,加速度センサは,携帯電話,ゲームコントローラ,歩数計,ビデオカメラ,ノートパソコン,ハードディスクなどの多くの製品に組込まれ,目立たない存在ですが人の動作やモノの落下などを検出し,上記製品に応じたいろいろなサービスを可能にしています.ところで,加速度センサの構造ですが,主に櫛歯構造をしたマイクロ運動機構(図1参照)が用いられています.おもりがばねで吊られていて,おもりの部分に加速度が加わると,その大きさに応じておもりが移動します.この移動量を櫛の歯の形をした電極で電気的に検出します.さてこの加速度センサ,名前の通り,いろいろなモノの動きを検出することができる小さな機械ですが,みなさんはこれでどのようなモノの動きを検出しますか? 大きさ数mm角の小さなチップ(加速度センサ)を付けることでモノの動きがわかるようになりますが,これを何に付け,どのようなサービスを可能にしますか?

(おまけ)

ところで,世の中には機械のように思える小さな生き物がいます.サルモネラ菌は,体の表面にらせんの形をしたスクリューがついており,これをモータで回転させて泳ぎます.体の大きさは1000分の2ミリ程度ですが,スクリューを1分間に15,000回も回転させて水中を泳ぎまわっています.


参考図書

・「はじめてのMEMS」,江刺正喜 著,森北出版株式会社

・「センサ・マイクロマシン工学 (EE Text)」,藤田博之 編著,株式会社オーム社

・「これからのMEMS- LSIとの融合 -」,江刺正喜・小野崇人 共著,森北出版株式会社


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