STANDARD3:医用画像とその応用 ここでは,今日の医療に使用される画像情報,すなわち医用画像の応用について学びます. ・医用画像の役割 医用画像については,前回の医工学スクール(*1)でも学んだ通り100年以上の歴史を持つレントゲン像(X線投影像)をはじめとして,様々な種類のものが医療の現場で使われています(図1).画像を使うことにより,患者の体内の異常を発見し,より効果的な治療の計画を立てることが可能となりました.さらに,今日の医用画像のほとんどがデジタル画像で,コンピュータを使って解析をすることにより,画像を眺めるだけでは得られない詳しい情報を得ることができます. 図1 様々な医用画像. ・診断における画像の役割:コンピュータによる「セカンドオピニオン」 病院において撮影した患者の画像を使った診断,すなわち「画像診断」を行うのは「放射線科(*2)」の医師で「画像診断医」と呼ばれています.前回の医工学スクールでも紹介しましたが,画像診断は人工知能や機械学習の最も期待されている応用分野の一つです(*3).最近は,ディープラーニング技術を中心として急速に研究開発が進んでおり,一部が実用化されつつあります(図2).このようなコンピュータによる画像診断の支援の目的は,医師が見落とすかもしれない小さな病変をコンピュータが自動で検出して医師に提示する,あるいは良性か悪性か判断の難しい病変を過去の膨大なデータに基づいて適切な判断を行うための関する助言を行うことなどです.また,ここで重要なことはコンピュータが医師にとって代わるのではなく,あくまで医師を補助する役目を担うことです.これを「コンピュータによる第2の意見(セカンドオピニオン)」と呼ぶことがあります. 図2 東大病院で使用されている画像診断支援システムCIRCUS(肺結節の自動検出) ・治療における画像の役割:医師の「熟練の技」を人工知能が学習する 患者の治療を行う際,医師達にとって患者の画像は地図,あるいは海図の役割を果たします.あるいは,最近では精巧な航空写真や衛星写真といった方が正確かもしれません.例えば,体内奥深くの病変に対して,周辺を過度に傷つけること無く安全にアプローチして取り除くためには,患者の画像は欠かせません.このとき,コンピュータは治療という航海の水先案内人(ナビゲーター)の役割を果たすことができます.安全な航路の選定と航海の計画,そして実際の航海の先導役を果たします.実際の治療では,主にコンピュータは以下のような3つの役割を担うことができます. (1)治療の計画 (2)治療前の予行演習・シミュレーション (3)治療中の機器の制御・治療のナビゲーション まず(1)の役割では,患者や治療の対象に対して最も安全かつ効果の高い治療の計画を計算します.外科手術では,患者のどの位置から手術対象にアプローチするか,放射線治療(*4)ではどの角度からどの強さで放射線を照射するかを決定します. (2)では,実際の手術時に起こりうる様々な状況を想定した「リハーサル」や,バーチャルリアリティ(VR)技術を駆使して何度もやり直せるシミュレーションが可能となっています.特にVRによる手術のシミュレーションは医師の教育や訓練にも導入されています. (3)では,画像が地図の役割を果たし,カーナビゲーションシステムのように医師の持つ手術器具が患者のどの位置に到達しているかを画像中に表示するシステム(図3)が市販され活用されています(*5).また,放射線治療装置や手術ロボットのようにコンピュータを含めた機器が,治療の大部分あるいは一部を担うことも今後増えていくと考えられています. また,最近では画像情報に基づいて,これらの治療における熟練の医師達の技術を学ぶことのできる人工知能に関する研究(*6)も始まり,これを元に最適な治療が実行できるようになることが期待されています. 図3 手術室におけるナビゲーションシステム 三脚に設置されているのが位置センサで,コンピュータ画面で手術器具の位置が画像上に表示されている. *1「医療で使用される画像について」 *2「画像診断科」など,他の名称がつけられていることもあります. *3「AI・機械学習について」 *4「治療の支援・手術ロボットについて」 *5 九州大学先端医工学診療部 *6 佐藤先生のご講演で紹介されます. 前の内容:講演者の先生方 次の内容:マイクロロボットと医療応用