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STEP-2:講演会
3月28日 開催(於:サテライトキャンパスひろしま) map

最先端の医工学の研究・開発の動向について学べます.

講演1

体内の流れを数学で見る・視る・診る 〜コンピュータによる血流シミュレーション〜

水藤 寛 先生

東北大学
材料科学高等研究所 (WPI-AIMR) 副所長/教授


 血液の流れや脳脊髄液の流れなど、体内の様々な流れは生体の活動に重要な役割を果たしています。特に心血管系の病気の場合は、血液の流れが滞っているところや血管壁に及ぼす力が大きいところを知ることは、予後予測に重要な役割を果たします。また近年では手術の前の検討の一環としていくつかの術後形状を想定した比較シミュレーションなども行われ、治療・手術方針の決定に関わるようになってきています。
 図は、血管の一部が大きく膨らんでしまう大動脈瘤という病気の形状を用いて、血流シミュレーションを実施した例です。色の付いた線は流線と呼ばれ、流れの方向を示しています。赤は流れの早いところ、青は遅いところを表しています。この図を見ると、動脈瘤の中で渦が出来ていることの他に、その前後で血管が大きく曲がったり捩れたりしている部分で非常に複雑な流れができていることが観察できます。実際にはこれらの流れによって、強い力が血管壁面にかかり、血管の変形や変性の原因になっていることがわかります。我々は、このような結果から、個人差の大きな血管形状がどのような仕組みで病態の違いにつながってきているのかを調べています。
 血流のシミュレーションとは、CTやMRIなどから得られる臓器の形状を用いて、紙と鉛筆では解くことの出来ない連立偏微分方程式をコンピュータの力を借りて解くことです。この講演では、そこに現れる様々な数学的ツールを紹介し、高校から大学初年級の数学がそこにどのように関わっているのかをご紹介します。


大動脈瘤の血流シミュレーション(図をクリックすると動画が流れます)

参考HP:
JST-CREST「臨床医療における数理モデリングの新たな展開」

東北大学 材料科学高等研究所 の紹介は こちら

講演2

アメーバの迷路解きから医療へと繋がる数理モデリング

手老 篤史 先生

九州大学
マス・フォア・インダストリ研究所 准教授


 生物は様々な輸送ネットワークを形成する。例えば人間は鉄道や道路網を用いて様々な物資を輸送するし、インターネットや電話回線を用いて情報をやり取りする。人間以外では蟻の行列が有名であるし、人間の内部では細胞への物質や情報の輸送として血管網や神経網が存在する。これらのネットワークは基本的には利用されている経路が発達し、利用されていない経路は廃れていく性質を持っている。
 真正粘菌 Physarum polycephalum の変形体(以下、粘菌)は単細胞生物でありながら大変面白い性質を持っている。粘菌はその内部に多くの核を内包しており、集団としての性質も持っている。そのため、物理的に2つに切断するとそのそれぞれが別の細胞として振舞う。そのため、実験状況に応じて形状を自由に指定することができる。また、粘菌の内部には栄養分を輸送するネットワークが存在する。この輸送ネットワークは管状の構造をしており、流量が多い経路ほど太くなり、自発的に本数が変化することが知られている。
 この粘菌のネットワークを用いて中垣俊之氏らは興味深い研究を行った。脳や神経系などの無い粘菌が迷路を解くというものである。このことからわかることは物理的な現象のみで迷路の最短経路が求まるということである。
 私はこの現象に対して数理モデルを構築した。すなわち、粘菌が迷路を解くという現象と同じふるまいをする数式を微分方程式を用いて作り、それをコンピューターで計算し、数学的な解析を行った。その結果、さまざまな適応ネットワークに応用可能な数理モデルを構築した。また、粘菌が迷路を解くという状況が新しい経路を作成する境界になっていることがわかった。例えば血管網において新しい血管を形成する現象は血管新生とよばれ、人間の成長や病気に大きな関係がある。
 本発表ではこれらの数理モデルを紹介することにより、「単細胞が迷路を解く」という研究が医療を含めた様々な研究に役に立つということや数学の有用性に応用可能であることを説明したい。


九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 の紹介は こちら

講演3

ヘビ型ロボットと医療ロボット,どこが違うのか?

亀川 哲志 先生

岡山大学
大学院ヘルスシステム統合科学研究科 講師


 私はこれまでにいろいろなロボットの研究開発をしてきましたが,本講演では特に2つのロボットを紹介しますので,2つのロボットの研究開発の共通点と違いを感じてもらえればと思います.
 1つは生物の蛇をまねて工学的に応用しようとしているヘビ型ロボットです.手足のない一本のひもの様な単純な形態でありながら複雑な環境を移動して生息する蛇をまねることができれば,いろいろな場面で活躍するロボットとして応用することが期待できます.また.ヘビ型ロボット開発することで,生物の行動原理を解明する研究もできると考えています.これまでの研究で,3次元空間を運動するヘビ型ロボットのプロトタイプを製作し,その冗長性を生かして多様な形態での移動が可能であることを実証してきました.特に最近では,国のプロジェクトにも参画し,ヘビ型ロボットの社会実装に向けた取り組みにも注力しています.
 もう1つは,医工連携プロジェクトで私がこれまでに開発してきた医療ロボットです.近年では,医療用に作られた専用の針を刺すだけでがんの検査や治療をする手技が広く行われるようになってきました.従来の手術に比べ,針の通るだけの傷で済みますので,患者さんへの負担も小さく非常に有用です.この手技の特徴は,針を体に刺す(穿刺する)場合に,危険な臓器に針がささらないように,CTで体の中を透視して,針とその周囲の状況を確認しながら穿刺を行うことです.これにより,安全で正確な針穿刺を行うことができますが,放射線科の医師が日常的にCTのX線で被ばくをするという大きな問題があります.この問題を解決するため,ロボットを遠隔操作して針穿刺を行うシステムを2012年から開発しています. 2018年には,岡山大学病院で実際の患者さんに対してこのロボットを使う臨床試験を達成するまでに至っています.


へび型ロボット
医療ロボット

岡山大学 大学院ヘルスシステム統合科学研究科 の紹介は こちら